ハマス幹部、米提案の停戦・人質解放案を承認しないと発言

画像提供, Reuters
デイヴィッド・グリッテン記者(ロンドン)、ラシュディ・アブ・アルーフ・ガザ特派員(カイロ)
パレスチナ・ガザ地区の武装組織ハマスは、アメリカが提示した最新の停戦および人質解放の提案を拒否する方針を示した。BBCが取材した幹部が明かした。
ホワイトハウスは29日、イスラエルがスティーヴ・ウィトコフ中東特使による提案を「承認した」と発表。現在ハマスからの正式な回答を待っていると述べていた。
イスラエルのメディアは、同国当局者の話として、この提案をもとに、ハマスが生存している人質10人と死亡した人質18人の遺体を2段階で引き渡す見通しだと報じていた。その見返りには、60日間の停戦と、イスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ人の釈放が含まれているとされていされていた。
しかしハマス幹部は、この提案は戦争の終結を含む「核心的な要求」を満たしていないと述べ、適切な時期に正式に回答すると話した。
イスラエル政府はコメントを出していないが、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は29日、イスラエル国内で人質の家族らに対し、ウィトコフ米特使による提案を受け入れたと述べたと報じられている。
イスラエルは3月18日、アメリカ、カタール、エジプトの仲介によって成立していた2カ月間の停戦が崩壊したことを受け、ガザ地区を全面封鎖し、ハマスに対する軍事攻撃を再開した。
イスラエル政府は、現在もハマスが拘束している様子の人質58人の解放を促すため、圧力を強めていると説明している。これらの人質のうち、少なくとも20人は生存しているとみられている。
5月19日には、イスラエル軍が「ガザ全域の制圧」を目指すとして軍事作戦を拡大した。ネタニヤフ首相は翌20日、ガザでの飢餓を防ぐため、封鎖の一部を緩和し、「基本的な量の」食料の搬入を認めると発表した。
ハマスが運営するガザ地区の保健省によると、過去10週間で同地区では約4000人が殺された。
国連は、イスラエルによる地上作戦と避難命令の影響で、さらに60万人が再び避難を余儀なくされていると発表した。
また、国連が支援する「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」の報告書は、今後数カ月のうちに約50万人が壊滅的な飢餓に直面する恐れがあると警告している。
「これまでの協議内容と矛盾」とハマス幹部
米ホワイトハウスの定例記者会見では29日、サウジアラビア資本の衛星テレビ局「アル・アラビーヤ」が報じた、「イスラエルとハマスが新しい停戦合意に達した」との報道についての質問が出た。
キャロライン・レヴィット報道官はこれに対して、「ウィトコフ特使と(ドナルド・トランプ米)大統領がハマスに停戦案を提示し、イスラエルはこれを支持・承認した。イスラエルはこの提案がハマスに送付される前に承認していた」と述べた。
また、「協議は現在も継続中だ。我々はガザでの停戦が実現し、すべての人質が帰還することを期待している」と語った。
しかしその後、ハマスの幹部はBBCに対し、この提案は、ウィトコフ特使とハマス交渉団が行ってきたこれまでの協議内容と矛盾していると主張した。
この幹部によると、今回の提案には一時的な停戦が恒久的な停戦につながるという保証が含まれていないほか、前回の停戦期間中に実施されていた、1日数百台規模の支援物資トラックの搬入を可能にする人道的枠組みの復活も盛り込まれていないという。
それでもハマスの幹部は、仲介役を務める関係国との連絡は継続しており、適切な時期に書面での正式な回答を提出すると話した。
29日も攻撃続く
一方、イスラエルの民放「チャンネル12」は、ネタニヤフ首相が29日夜、人質の家族との会合で「今夜提示された最新のウィトコフ案を受け入れることに同意した。ハマスはまだ回答していない。我々はハマスが最後の人質を解放するとは考えておらず、すべての人質が我々の手に戻るまでガザを離れない」と述べたと報じた。
首相府はその後、同局の記者が会合の場に録音機器を「持ち込もうとした」と非難する声明を発表したが、ネタニヤフ首相が米国の提案に同意したという報道内容自体は否定しなかった。
ネタニヤフ首相はこれまでにも、イスラエルが戦争を終結させる条件として、すべての人質の解放、ハマスの壊滅または武装解除、ハマス指導部の国外追放を挙げている。
一方ハマスは、すべての人質を解放する用意があるとし、その条件として敵対行為の完全な終結と、イスラエル軍のガザからの全面撤退を求めている。
イスラエルは、2023年10月7日にハマスが越境攻撃を行い、約1200人を殺害、251人を人質として連れ去ったことを受け、ガザ地区で軍事作戦を開始した。
この戦闘が始まる以前から、ガザではすでに4人(うち2人は死亡)が拘束されていた。
これまでにイスラエルは、人質197人の帰還を実現しており、そのうち148人は生存していた。人質の多くは、ハマスとの一時的な停戦合意を通じて解放された。
一方、ガザ地区の保健省によると、戦争開始以降に少なくとも5万4249人が殺されており、そのうち3986人はイスラエルが軍事作戦を再開した後の犠牲者だという。
また、ハマスが運営する民間防衛隊によると、29日にはガザ各地でのイスラエル軍の空爆により、少なくとも54人が殺された。このうち23人は、ガザ中部ブレイジ地区で住宅が攻撃された際に死亡したという。
イスラエル軍は、過去24時間で「数十のテロ関連目標」を攻撃したと発表している。