イギリスが新しい移民政策を発表、ビザ要件など大幅に厳格化

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イギリス政府は12日、新しい移民白書を発表した。キア・スターマー首相は、新政策により、今後4年間で純移民数が「大幅に」減少すると約束した。
スターマー首相は、海外からの介護職の採用禁止、熟練労働者ビザ(査証)の取得要件の厳格化、雇用主に対するコストの引き上げといった措置を発表し、過去最高水準に近い純移民数の抑制を目指すとした。
具体的な数値目標は示されなかったものの、英内務省は、「定量評価」が可能な主要政策8項目を分析し、2029年までに年間10万人の移民減少につながり得ると試算している。
純移民数とは、イギリスに入国した人数から出国した人数を差し引いた数。歴代政権は、この純移民数を減らそうと取り組んだが、いずれも成果を上げることはできなかった。
2023年6月には、純移民数が過去最高の90万6000人に達し、昨年も72万8000人と高水準を維持した。
スターマー首相は、新政策を通じて移民制度を「再びコントロールする」と主張。新方針はイギリスへの合法的な移民に対応するためのもので、「選別的」で「公正な」制度を通じて「誰がこの国に来るかを我々が決める」と述べた。
そのうえで、「労働、家族、留学を含む移民制度のあらゆる分野が厳格化され、より強い管理が可能になる」と語り、「取り締まりはこれまで以上に厳しくなり、移民数は減少する」と強調した。
首相は、今回の政策が野党「リフォームUK」の躍進に対抗するためのものだという見方を否定。記者会見では、「これは正しいことで、公平で、自分が信じることだから実行している」と強調した。
一方、最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は「必要な変化の規模にまったく程遠い」と、政府の対応は不十分だと批判した。
留学生に新しく課税、英語能力の要件も引き上げ
政府は今回、保守党のボリス・ジョンソン政権下で導入された、海外からの医療・介護職の採用を認めるビザ制度について、廃止する方針を示した。
今後は、企業に対して国内の人材を採用するか、すでにイギリスに滞在している外国人労働者のビザを延長するよう求める。
内務省の試算によると、この変更により年間7000~8000人の労働者の流入が抑制される見込みだ。
しかし、介護事業者からは、国際的な人材なしでは一部のサービスの継続が困難になるという懸念の声も上がっている。
また、外国人労働者を雇用する企業には、より高い費用負担が求められる。移民技能負担金は32%引き上げられ、中小企業では最大2400ポンド、大企業では最大6600ポンドの支払いが必要となる。
大学も、新たな負担を強いられる可能性がある。政府は、イギリスの大学に在籍するすべての留学生について新しい税金を検討しており、その税収を技能訓練への投資に充てる予定だ。
同時に、留学生の受け入れについては従来より厳格な基準が課される。留学が認められた学生のうち少なくとも95%がコースを開始し、90%が修了することが求められる。
熟練労働者ビザの申請に必要な資格要件は、ジョンソン政権下で緩和された基準を見直し、再び引き上げられる。
これにより、新規の申請者は原則として大学入学レベルを示す一般教育修了上級レベル(Aレベル)ではなく、学士レベルの資格を有する必要がある。政府は、これによって約180の職種がビザ申請の対象外となると見込んでいる。
ただし、長期的な人材不足が続く分野や、政府の産業戦略上で重要とされる分野については、引き続き低い資格要件が適用される。
これが実際にどのような職種に適用されるかはまだ不明で、政府は移民諮問委員会に対して、対象とすべき職種の提言を求めている。
このほか、イギリス政府が打ち出した方針は以下の通り。
- すべての就労ビザにおける英語能力要件を引き上げる
- 永住権(定住資格)を申請するために必要なイギリスでの滞在期間は、これまでの5年から10年に倍増される。一方で、「高技能と高い貢献度を持つ人材」に対しては、迅速な審査制度が設けられる予定だ
- 国連の難民高等弁務官事務所(UNHCR)によって認定された難民および避難民のうち「限定的な枠」に該当する人々については、既存の技能労働者ルートを通じて就労申請が可能となる
政府はまた、欧州人権条約(ECHR)第8条に規定されている「家族生活を営む権利」の移民案件への適用方法について、法改正の可能性を検討している。
政府はこれまで、第8条は「従来よりもっと狭く」解釈するべきとの立場を示してきた。たとえば政府は、ウクライナ人向けの制度を通じて申請し却下された後、控訴審でイギリスでの居住を認められたパレスチナ人家族について、第8条の適用に反対してきた。
政府関係者によると、新しい移民政策については、議会の見解を司法の場で明確に示すため、議会での採決が行われる可能性が高いという。
首相は「大幅な減少」を約束、野党の反応は
移民白書の公表に先立ち、スターマー首相は、一部産業が「安価な労働力の輸入にほとんど依存している」と批判。「国内の人材育成への投資を怠っている」と指摘した。
今回の計画によって純移民数が毎年減少するのかと問われたスターマー首相は、「大幅に減少することを約束する」と述べた。
さらに、「この議会の任期が終わるまでに、確実に大きく減らしたい」と強調した。
また、今後いっそうの制限が加えられる可能性についても言及し、「住宅や公共サービスへの圧力を緩和するために、さらに措置が必要ならば、必ずそれを実行する」と話した。
保守党は、ビザ要件の厳格化などの政策を支持する方針を示しているが、ベイドノック党首は、今回の政策は「保守党の政策を薄めたものに過ぎない」と批判した。
保守党は、議会が設定する、拘束力のある移民上限の導入を求めている。
野党・自由民主党は、政府が移民問題に取り組む姿勢は正しいとしつつも、リサ・スマート報道担当(内政担当)は、「仕事の空きを埋めるためにイギリス人労働者を採用しやすくする、明確な計画が必要だ」と求めた。
野党「リフォームUK」のナイジェル・ファラージ党首は、労働党が今回の変更を導入したのは「地方選挙での自党の台頭に明らかに動揺しているからだ」と主張した。
ファラージ氏は、この白書は「表面的な手直しに過ぎない」と述べ、「たとえ(移民の)人数が減ったとしても、依然として歴史的に見て非常に高い水準にとどまるはずだ」と批判した。
野党・緑の党は、今回の提案を「パニック状態での誤った対応」だと労働党を批判。政府が「ニュースの見出しになるような話題を作り、リフォーム(UK)支持層を取り戻そうそうとしている」のだとした。
対するスターマー首相は、今回の政策がリフォームUKの脅威に反応したものだとの見方を否定。記者会見では、「これは正しいことであり、公平であり、自分が信じることだから実行している」と述べた。
また、保守党政権の移民政策を「門戸開放の実験」と繰り返し批判し、その時代はすでに終わったと強調した。
そのうえで、移民および統合に関する強固なルールがなければ、イギリスは「見知らぬ人ばかりの島」になってしまう危険があると警告した。
これに対し、労働党内の左派の一部からは、スターマー首相の移民政策は過剰だとの批判も出ている。
ナディア・ウィットム下院議員は、首相が「極右の扇動的な言説を模倣している」と非難した。
ウィットム議員はSNSへの投稿で、「政府による反移民的なレトリックの強化は、恥ずべきことであり、危険でもある」と述べた。